藤子・F・不二雄は「人間」に何を見たのか(1)ーー『ミノタウロスの皿』書評

 青い猫型ロボット、または青だぬき。『ドラえもん』の作者は、藤子・F・不二雄。そんな彼がブラックジョークを描いたら、と考えたことはあるだろうか。少しでも、そう思ったならば本書を読むことをお勧めする。どぎついブラックジョーク加減に思わず青ざめて、肌が青くなってしまうかもしれない。

 

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藤子・F・不二雄[異色短編集]1 ミノタウロスの皿』

藤子・F・不二雄

小学館文庫

 

 

新宿の紀伊国屋

 新宿の紀伊国屋書店。本棚の一面が藤子・F・不二雄のコーナーになっていた。『ドラえもん』の長編集や『パーマン』などが並べられている。その中で『ミノタウロスの皿』と書かれた本を見つけた。雄牛が皿に乗ってフォークとナイフを手に持っている絵が表紙になっていた。『ミノタウロスの皿』と言う題も、なんだか不穏なイメージを想像させる。一話読む。背筋が凍るような気がした(この時は蒸し暑い日だった)。さらに"爽快感"があった。けれど、それはポカリの宣伝のような爽快感ではなくて、言いにくいことを言ってくれた、そういうような爽快感。「人間はこういうものなんだよ、隠さなくていいさ。所詮はこんな生き物なんだ。」藤子・F・不二雄に、そう言われているような気分がした。星新一ショートショートを読んだ時も同じような爽快感を覚えた気がする。

 

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人間に何を見る

 『ミノタウロスの皿』に収録されている13話の短編は、人間という生物の心の底にある様々な心情を描く。藤子・F・不二雄は、欲望や羨望、正義や悪といった、白黒を付ける事が難しいモチーフをストレートに描いている。さらに具体的に示されるテーマとしては「DV」「正義・悪」「食物連鎖」「タイムパラドクス」「人口増加」などがある。

 

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繰り返し読む

 この本の巻末に収録されている北村想氏のエッセイ「藤子短編についての架空対話」でもこんなことが述べられている。

◯藤子さんの短編は何度読み返しても、うーんと唸るしかないなあ。

☆そうだねえ、たいていマンガというやつは読み捨てが相場なんだけどな。

藤子・F・不二雄[異色短編集]1 ミノタウロスの皿』収録

エッセイ「藤子短編についての架空対話」より

 北村想氏が言うように漫画は一度読んで終わり、そう言うようなことが多い。『20世紀少年』の全巻セットを買ったはいいものの、何度も読み返してはいない。しかし本書は何度も表紙をめくりたくなる。何故か。それは本書で描かれるテーマが普遍的なものであるからだろう。ある話はSFを描いていると共に愛を描いている。SFというのは、それが想像的なものであればある程に「訪れることない現実」となる。愛というのは、映画や小説そしてもちろん漫画などでも描かれるように普遍的なものであり、決して人間が失われることのない感情だ。

 

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T・Mは絶対に

 収録されている短編の中に『T・Mは絶対に』という物語がある。どのような物語なのか少し紹介しよう。

 山奥の家に暮らす1組の夫婦。しかし、夫は普通の男ではなかった。彼は、タイムマシン(Time Machine:T・M)の実現に魂をかけ、地下室にこもり、日夜研究をしていた。ある時、その夫が昔いた会社の同僚が家を訪れる。社会復帰を持ちかけるが、男は断固としてタイムマシンが実現可能であることを説明する。だがその思いは昔の同僚には伝わらない。それを見越した男は既に完成したという「タイムマシン」を自身の妻と昔の同僚に披露するが…。

藤子・F・不二雄[異色短編集]1 ミノタウロスの皿』収録 『T・Mは絶対に』あらすじ

  続きが気になると思う。この本を手に入れた方は、驚くだろう。何故なら今紹介した『T・Mは絶対に』は最初から結末まで、たったの4ページしかないからだ。たった4ページなのだが、最後の一コマで読者を撃ち抜く。それまでの過程を描いたコマももちろん素晴らしいのだけれど、何と言ってもその最後の一コマが衝撃的だ。『T・Mは絶対に』の他にも、最後の一コマで衝撃的な展開が待ち受ける話がいくつかある。

 

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続くブラックジョー

 本書の他に3つ「異色短編集」が出版されている。多種多様なモチーフを主題とし、様々なストーリーで描かれている本書は何ヶ月、何年経とうとも色褪せないものだ。『ドラえもん』とのギャップにさぞ驚くだろう。VHSも出ているらしい。けれど、この話を映像として観たら3ヶ月くらい引きこもりになりそうだ。スーパーマーケットには絶対行けないだろうね。 

ミノタウロスの皿 [VHS]

ミノタウロスの皿 [VHS]

 

 

 

ミノタウロスの皿 (小学館文庫―藤子・F・不二雄〈異色短編集〉)

ミノタウロスの皿 (小学館文庫―藤子・F・不二雄〈異色短編集〉)