#23:"Pirates of the Caribbean: Dead Men Tell No Tales" /『パイレーツ・オブ・カリビアン:最後の海賊』 感想

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 2003年に公開された『呪われた海賊たち』を始まりとし、『パイレーツ・オブ・カリビアン』シリーズは、今作で5作目。さらに主演のジョニー・デップは、すべての作品において孤高の海賊ジャック・スパロウを演じている。しかも物語全てが"海賊の物語" 。これほど異色で最高な映画作品があるだろうか。そして『最後の海賊』。ハビエル・バルデムを"ヴィラン"サラザールに迎え、新キャストとしてブレントン・スウェイツ、カヤ・スコデラリオ。バルボッサとしてジェフリーラッシュ。そしてジャック・スパロウを演じるのは、もちろんジョニー・デップ。フィナーレとも噂された『パイレーツ・オブ・カリビアン:最後の海賊』。今回はその感想だ。

 

作品情報

題名:"Pirates of the Caribbean: Dead Men Tell No Tales"

邦題:パイレーツ・オブ・カリビアン:最後の海賊』

監督:ヨアヒム・ローニング、エスペン・サンドペリ

製作:ジェリー・ブラッカイマー

出演:ジョニー・デップジェフリー・ラッシュハビエル・バルデム、ブレントン・スウェイツ、カヤ・スコデラリオ 他

 

あらすじ

 かつてジャックと冒険を共にしたウィル・ターナーは、今や幽霊船フライング・ダッチマン号の船長として呪われた運命を生きている。その息子ヘンリーは、父を救おうと海の伝説を調べつくし、呪いを解く力が伝説の秘宝<ポセイドンの槍>にあることを突き止める。


 勇気ある青年に成長したヘンリーは、英国軍の水兵となるが、いまだ<ポセイドンの槍>にはたどり着けずにいた。ある日、船が危険な“魔の三角海域”近くを航行中、恐ろしい姿をした“海の死神”サラザールに襲われる。 “魔の三角海域”の呪いから我が身を解き放つため、伝説の海賊ジャック・スパロウと彼の持つ<北を指さないコンパス>を欲するサラザールは、同じくジャックを探すヘンリーをひとりだけ生かし、ジャックへの伝言を託した。ほどなく船は遭難し、ヘンリーは、英国植民地セント・マーティン島に流れ着く。


 そこでヘンリーが遭遇したのは、科学者ゆえに魔女の濡れ衣を着せられて追われている、美しい天文学者カリーナだった。彼女は、まだ幼い頃に生き別れた父が残したガリレオ・ガリレイの日記に秘められた謎を解こうとしていた。その謎とは、なんと<ポセイドンの槍>にたどり着くための方法…。だが彼女は、英国軍に捕らわれ、投獄されてしまう。

作品情報|パイレーツ・オブ・カリビアン/最後の海賊|ディズニー公式

 

 感想 

誰の物語か

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 『パイレーツ・オブ・カリビアン』シリーズで"主役"であり、物語の軸となっていたジャック・スパロウ。だが本来の主役はジャックではない。『呪われた海賊たち』『デッドマンズ・チェスト』『ワールド・エンド』の3作は、ウィル・ターナーとエリザベス・スワンの物語である(と思う)。そしてジャックはというと、彼らの物語にスパイスを加えるいわば香辛料のような存在だ。そのバランスを適度に保ち、この3作は素晴らしく幕を閉じた。

 しかし第4作目の『生命の泉』。これは最初から最後まで"ジャック・スパロウの物語"となっていた。彼が昔にそそのかした修道女が、『生命の泉』のヒロイン的立場であるアンジェリカ。だが『生命の泉』にもウィルとエリザベス的立場の若者2人がいた(人と言うべきか否かはお任せする)。人魚のシレーナと宣教師のフィリップ。彼ら単体の物語は素晴らしいものだと思うが、そのほとんどがジャックと交わらず、暴走車のように『パイレーツ・オブ・カリビアン:生命の泉』物語内を突き進んでしまった。

 今作『最後の海賊』ではどうだったか。ウィルとエリザベス的立場で示されるのは、ヘンリーとカリーナだ。彼らは、今作で物語の軸となっており、物語上の大変重要なエッセンスとなっている。しかし今作は"ジャックの物語"もだいぶ描かれていた。サラザールの回想場面でジャックがどのようにして船長になったか、彼の若い頃が描かれる。この「ヘンリーとカリーナ」「ジャック・スパロウ」という二つの物語が『最後の海賊』では、交互に描かれた。悪くいうと、中途半端にそれぞれの物語が進み、テンポがいいとは言えない仕上がりとなっていた。だがそれぞれの(中途半端に進みながらも)物語が終盤で解決し、上手くまとめ上げられていたので"駄作"とは言えなそうだ。誰の物語か。それが『パイレーツ〜』シリーズにおいて重要な点なのではないだろうか。

 

ヘンリーとカリーナ

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 『最後の海賊』でウィルとエリザベス的立場で登場するのは、ヘンリーとカリーナという2人の若者だ。鑑賞前は『生命の泉』の時のように、物語に対した作用もせずに彼らの物語が進みのではないかと危惧していた。しかし今回はならなかった。彼らの内、一人は旧作に登場した人物たちの息子であるからだ。それはヘンリーである。彼の名はヘンリー・ターナー。ウィルとエリザベスの息子で、『ワールド・エンド』のエンドクレジットで登場した少年の成長した姿なのだ。 父ウィルの呪いを解くため、全ての呪いを解く「ポセイドンの矛」を探している。父の呪いを解くために奔走しているという物語は、『デッドマンズ・チェスト』『ワールド・エンド』の2作でのウィルにつながるものがある。

 対してカリーナは、"孤高の天文学者"とでも言うべきだろうか。彼女もヘンリーと同じくある目的を果たすために奔走している。幼い頃に生き別れた父親が残した「ガリレオ・ガリレイの日記」に隠された秘密を解き、伝説の秘宝〈ポセイドンの槍〉を見つけることだ。

 つまりヘンリーとカリーナは、(作中でも述べられるが)父親の影を追い、そのために〈ポセイドンの槍〉を発見しようとしている「似た者同士」なのだ。その彼らの物語は深く語られる。最初の場面から最後の場面まで。その時、こう思った。もう『パイレーツ・オブ・カリビアン』は、ジャック・スパロウがいなくても大丈夫かもしれない。

 

"ジャック。あんたの伝説は、もう終わりだ"

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  作中でジャックは落ちぶれた状態で登場する。その姿に"呪われた海賊たち"を倒したジャックはいない。"海の怪物"を倒したジャックはいない。もうかつてのジャック・スパロウではないのかもしれない。そして彼は相棒であるギブスにも言われる。「ジャック、あんたはもう運に見放された。伝説はもう終わりだ」。

 きっとジャックは、もうカリブ海の海賊長ではないだろう。他の誰かが選ばれたはずだ。今作でも逃げてばかりだ。その証拠に、剣は出すものの、すぐにはたかれ、岩陰に隠れてしまう。泥まみれになり、酔いに酔い。"逃げるために、闘う"。世界の海賊長たちの前でそう言った男はどこに行ったのか。

 ブラックパール号の舵を握るのはジャックしかいない、そう思っていた。漆黒の船体を操り、海を悠々と航海するのはジャックしかありえない。そう思っていた。しかし、今作で「もしかしたら、ジャックではない誰かが、ブラックパール号の舵を握る潮時が来たのかもしれない」そう感じた。

 

ヘクター・バルボッサ

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 海賊は財宝を欲しがる。そして財宝には色々な形がある。彼も遂に財宝を見つけたようだ。"私の名前はバルボッサ"。

 

サラザール

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 サラザール。彼は「イイヤツ」だ。『パイレーツ・オブ・カリビアン』が好きだからこそ、海賊側に肩入れしてしまうもの、海賊は普通に見ればテロリストと同じで、日常を脅かす存在だ。だからサラザールはイイヤツなのだ。

 その恐ろしい姿も海賊の一人の賢い作戦で、"魔の三角区域"の呪いになってしまっただけで。彼は何がしたいのか。「全ての海賊の撲滅」それが当初の目的。だが、ジャックと出会った後は、復讐の鬼となった。

 それに"魔の三角区域"が劇中に登場すると聞いた時、本当に楽しみだった。どのようにしてそこに入るのか。どのようにしてそこに囚われているのか等々。しかし、いざ鑑賞すると、なんと「内側から開けることできない部屋」のようではないか。当のサラザール達は、その区域でフラフラ時間を潰している。ここの場面はもっと屈辱的な感じでもよかったのでないだろうか。例えば海藻でできたロープで水中に囚われていた、とか。岩に鎖で繋がれ、内臓を鷲に喰われるとか。

 さらにサラザールだけではなく、彼の乗組員にもよりフォーカスして欲しかった。デイヴィ・ジョーンズの手下には、頭が法螺貝でできた奴とか、マッカスという航海士もいた。しかし、今作ではそれがなく「幽霊の人達」、としか認識することができなかった。少し残念だ。 

 

音楽

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 映画というものにおいて音楽は重要な役割を果たす。『パイレーツ・オブ・カリビアン』シリーズももちろんそうだ。今までのパイレーツ音楽を振り返ると、その功績は素晴らしいものだ。『呪われた海賊たち』では「彼こそが海賊」という最高のスコアが、『デッドマンズチェスト』では人喰い族の荒々しいテーマやデイヴィ・ジョーンズの悲劇的なテーマが作られた。『ワールド・エンド』ではウィルとエリザベスのテーマが、海賊たちの音楽が、『生命の泉』では人魚の妖艶なテーマ。こんな感じだろうか。

 『最後の海賊』でスコアの作曲を務めたのは、ジェフ・ザネリ。彼は2、3、4とスコアを務めたハンス・ジマーの弟子的存在である人物だ。鑑賞後、素晴らしいスコアを作り上げてくれた、そう感じた。ここにディズニーが公式に公開している『最後の海賊』のスコアを置いておく。 

 

 死人に口なし

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  『パイレーツ・オブ・カリビアン』第5作目『最後の海賊』。確かに矛盾点はあった。言いたいこともある。しかしそれでも心から面白いと言える物語に仕上がっていた。最後に。もしブラックパール号の舵をジャックではない他の誰かが握ったとしても。ジャックの意志を、そして一回でもその舵を握ったことある者の意志を継いでいる者ならば、舵を譲ってもいいのではないだろうか。

 そろそろ潮時だ。新たなクルーと共に、新たなキャプテンと共に、新たな冒険に行く覚悟はもうこの作品で充分に出来た。