曲がり角にあるポスト

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『そうそう、あのポストあるじゃん?』

隣を歩いていたFは私にそう言った。「あのポスト」を見た。曲がり角にある、極普通のポストだ。赤く四角い、何の変哲も無いポスト。あれがどうかしたのか、と私はFに聞いた。

 『多分あのポスト使われていないんだよね。』

見た事がないだけじゃないの、と私は言おうとしたが、Fはそのまま話を続けた。

『この町に引っ越してから、もう5年経つけど、一回も郵便屋が手紙を回収しているところを見た事ないんだよね。』

 仕事の時間と被っているのではないか、と聞くと

『いやぁ。でもバイクの音も何も聞いた事がないんだよ?誰もあそこのポストに出してないし。』

Fはそう答えた。私は特に興味もなかったので、聞き流した。 

Fと私は高校時代からの友人だ。彼はあまり友達がいない。しかし彼と話していると、私は心から落ち着く事ができるんだ。

なんでかだって?なぜかは分からない。別に趣味が同じわけでもないしさ。音楽の趣向も正反対だ。彼は邦楽ロック。私はジャズ。なんでああいう「ジャガジャガしたもの」を聴けるのかが理解不能だよ。まぁ、そんな話をしたかったわけじゃない。君に話したかったのは、Fが言った「あのポスト」についてなんだ。

 

 

 

僕が気になっている「あのポスト」の話をしても、Mはいつも通り興味がなさそうにしたんだよ。でも本当に、あのポストの手紙が回収されているのを、見た事がないんだよね。そもそも手紙が入っているのかさえも分からないよ。暑中見舞いだって、年賀状だって入っているかも知らないよ。気になって眠れやしないよ。君は先週Fにあったんだってね。ポストのことを話されたらしいじゃないか。

なんで知っているかだって?それはMが僕にLINEをしてきたからだよ。ほら、見なよ。ここに書いてあるでしょ。「あいつにポストについて話したけど、何も知らなそう。もう諦めなよ。」ってね。実はね、同じ大学に通ってる人たちに話を聞いて回っているんだ。友達と言えるような人は少ないけど、顔見知りはそりゃいるさ。君で17人目なんだよ。もう駄目かもしれないね。

 

 

Fには絶対に言うなよ。君だけに言うからな。実は「ポスト」について、同じ大学に通っている人たちに聞いて回っているんだ。でも本当はその必要はなくてさ。なんでかと言うと、もうすでに私は見てしまったからなんだよ。「ポスト」の正体をね。

教えて欲しい?そうかい。でもこれをタダで教えるわけにはいかないな。なんて言ったってFにも言っていないんだから。1000円でいいよ。

高いだって!?思わず大声を出してしまったじゃないか!私はこう見えて君の先輩だよ?それでも嫌そうな顔をしているじゃないか。よし分かった。500円でいいよ。ワンコインだぜ。この情報と比べれば安いもんだよ。受け取ったから、明日の昼休みにここの場所に集合。その時に「ポスト」の正体を書いた手紙を渡すからさ。

今話せばいいのに?ってか。せっかく500円も払ってくれているんだ。他の人に聞こえるような場所ではいけないよ。文字に起こして、丁寧に読んでもらわないと。じゃあ、明日。この場所で。じゃあな。

 

 

17人目っていうのは僕の担当で、ってことだよ。Mが聞いてくれた人数も含めれば、30人は超えているんじゃないかな。大学卒業までに、何か手がかりを得られればいいなあ。子供の時のようなワクワク感が今の僕にはあるよ。ワクワクドキドキってこんなことを言うのかな。探偵みたいでもあるよね。今日はどうもありがとう。またね。バイバイ。ここのお金は僕が払っておくよ。

 

 

次の日

俺は昨日の「ポスト」の話が気になってしょうがなかった。眠れもしない。F先輩の方が優しいいけど、気の毒だよな。友達のM先輩はもう「ポスト」について真実を知っているのに、教えてもらえなくて。そのF先輩を挿し退いて、俺が真実を知るわけだから。いいのかなあ。コレって。まぁでも500円の価値のある情報らしいから、それなりのことを知ることができるんだろうな。

ピロン

お、M先輩からLINEだ。どれどれ。

『ごめん、急な予定ができてその場には行けなくなった。「ポスト」について書いた手紙を送ったよ。住所は年賀状に書いてあったものに送ったから数日後に届くと思う。』

なんだよ。ドタキャンかよ。まぁ、いいか。家に送ってくれるみたいだし。

 

7日後

なんだよ。7日も待ってるのに、届かないじゃないか。M先輩にも、F先輩も見かけないし。あぁ、もう気になってしょうがない。なんなんだよ、まったく。

ピロン

メールが届いた。誰からだろう。「Soosle」!?あの「Soosle」?数ヶ月前に応募した、外資系企業の最高峰のあの「Soosle」か?もしかして繰り上げ入社とかか?開封しよう。

 

この度は、弊社にご応募いただき、誠にありがとうございました。
「あのポスト」を利用した、貴殿の行動力・不正への対処法などのスニーク試験の結果、誠に残念ながら、今回は貴意に添いかねる結果となりました。

弊社にご関心をお寄せいただいたにも関わらず、大変恐縮ではございますが、何卒ご了承いただければ幸いです。

末筆ながら、貴殿の今後益々のご活躍をお祈り申し上げます。


株式会社 Soosle 採用担当

 

スニーク試験ってなんだよ。え?しかもお祈りメール。じゃあF先輩とM先輩はSoosleの社員なの?なんなんだよ。意味わかんねえよ。

 

 

こうしてSoosleの「スニーク入社試験」は、38人目の彼を最後にして終わりを告げた。 

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