#20:『ザ・サークル』レビュー

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 "The Circle"の鑑賞後に、観客はLINEを開けるだろうか。TwitterFacebookで近況をシェアできるだろうか。インスタグラムで「"The Circle"を観た!」という自撮り写真を投稿できるのか。ソーシャルメディアは人を繋げる。しかしその「繋がる」は本当の意味での「繋がる」なのだろうか。"The Circle"のレビュー(ネタバレはしていません)。

"Knowing is good. Knowing everything is better."

 

"The Circle" 『ザ・サークル

(2017年/監督:ジェームズ・ポンソルト

 

あらすじ

『サークル』。それはイーモン・ベイリートム・ハンクス)が創業した、"Sharing is Caring"/「シェアすることは互いを思いやること」をモットーに掲げる、多国籍テクノロジー企業。社内の職員たちは"Circler"/「サークラー」と呼ばれ、個々のサークルアカウントが作成されていた。アカウントによって、彼らは近況をシェアし、同僚たちと語り合い、さらには体調までもが管理された。そのお陰で「サークラー」たちは快適な職場で、最高の人生を送ることが出来ていた。

多発性硬化症を患う父親を持つ、メイ・ホランドエマ・ワトソン)。友人の紹介で憧れの『サークル』で職を得る。メイが入社すると、そこはまるでユートピアのようだった。入社した当初は、多少の違和感を感じたメイ。しかし、時間が経つにつれその「違和感」は消え、彼女は『サークル』で才覚を伸ばしていった。

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この"The Circle"/『ザ・サークル』という映画は現代社会に問う。ソーシャルメディアは「世のため、人のため」なのか。鑑賞後、観客はLINEを開けるだろうか。TwitterFacebookで近況をシェアできるだろうか。インスタグラムで「"The Circle"を観た!」という自撮り写真を投稿できるのか。ソーシャルメディアは人を繋げる。しかしその「繋がる」は本当の意味での「繋がる」なのだろうか。

"Knowing is good. Knowing everything is better."

『知ることは、いいことだ。全てを知るのは更にいい。』

 

惑わされるな

鑑賞後に映画批評サイトを見て今作の評価を見た。そのほとんどの評価は低い。しかしそれらの評価に惑わされてはいけない。これらの批評家たちは、トム・ハンクスジョン・ボイエガの登場場面が少なかったから低く点数をつけているのだろう。物語の筋が通らないから点数を下げているのか。現実性がないから点数を下げているのか。確かに、トム・ハンクスの登場場面は少なかった。強引だなと思う物語の展開はあった。

しかしこの映画は今だからこそ公開されるべき作品だ。今作のメッセージ性を考えて欲しい。日本では特にそうだ。誰もが下を向き、小さい液晶画面を見つめている時代。ソーシャルネットワークを通じた関係性。シェアすることで得られる安心感、満足感。『ザ・サークル』は、それらの問題(問題と取るかは個人の自由だが)を深く掘り下げている。

 

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イーモンのプレゼンテーション

イーモン・ベイリー(きっとイーロン・マスクの「イーロン」をもじったのだろう)。彼は『サークル』の創業者。彼は"Magic Friday"と呼ばれる定例プレゼン会を、毎週金曜日にする。そこでイーモンは自身の思想や新たな構想を「サークラー」に向かって語る。それは見るものの注目を引きつけ、魅了する。この場面はAppleの創業者スティーブ・ジョブズの姿と重なる。構想名を発表するときの感じなど。 それは意図的なものなのだろう。

この場面の凄い点は2つある。一つは、画面の向こうの観客とこちら側がリンクする事。もう一つは、イーモンの「カリスマ性」を体現するトム・ハンクスの演技力だ。

 ・1点目の『画面の向こうの観客とこちら側がリンクする』について。

プレゼンテーションをしている、イーモン。その様子を見ている「サークラー」たち。この場面はこの2つが中心となって構成されている。注目すべきなのはイーモンを見ている「サークラー」たちが、僕ら観客が重なるように撮られているという事だ。ましてや劇場であることから、その会場に実際にいるかのような錯覚を覚えた。

・2点目の『イーモンの「カリスマ性」を体現するトム・ハンクス』について。

 スティーブ・ジョブズのような「カリスマ性」を表現するというのは、並大抵のことではないと思う。しかし、それをトム・ハンクスはやってのけた。やはり素晴らしい俳優だ。イーモン・ベイリーのプレゼンを見ていると、本当に引き込まれるのだ。劇場で是非体感してもらいたい。あなたも「サークラー」の気持ちが分かるかもしれない。

 

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エマ・ワトソンがメイ・ホランドを演じる必要性

俳優がその役を演じるのには、何かしらの理由がある。キャラクターの雰囲気に合っているから。その俳優がその役を演じたいと言ったから。監督(またはその他の人々)の指名。

ザ・サークル』で主人公のメイ・ホランドを演じるのは、『ハリー・ポッター』シリーズ、ディズニー実写版『美女と野獣』などで有名な、エマ・ワトソンだ。なぜ彼女がこの役を演じたのか。有名だからか。話題性が広がるからか。いや、そのどれでもないと思う。この役はエマ・ワトソンだからこそ、完成したのであり、演じられたのだ。その理由は2つある。

今作でキーとなるのは「監視」だ。

エマ・ワトソンは『ハリー・ポッター』シリーズ全作に渡りハーマイオニー役として演じ、一躍世間に彼女の名は知られることとなった。彼女がハーマイオニーを演じてきたのは、2001年公開の『賢者の石』から2011年公開の『死の秘宝 PART2』までだ。彼女が成長する様子を、僕らは『ハリーポッター』シリーズ全作を通して観ることができる。さらに彼女の幼少期(2001)からの写真を検索すればいくらでも出てくる。つまり彼女のプライバシーは、あるようで無いということだ。言い換えればエマ・ワトソンは『ハリー・ポッター』という作品を通して、僕ら観客に無意識的に「監視」されていた。これが1つ目の理由。

 

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2つ目の理由は、エマ・ワトソン自身が能動的に活動している、パブリックスピーカーであるということだ。国連の"UN Women"の親善大使に任命され、彼女の国連での"I'm a feminist"スピーチは、多くの人々に感銘を与えた。そして本を地下鉄の様々な場所に隠す、という読書を推進する取り組みなど、彼女はインスピレーションを世間に与え続けている。そして『ザ・サークル』で新入「サークラー」メイ・ホランドを演じている。物語が進んでいくと、メイは頭角を現し、多くの社員の前でプレゼンをする。その時に彼女が「サークラー」、そして僕たち観客に訴えかける様子は、彼女自身が能動的なパブリックスピーカーであることより、より一層説得力を増す。

この2つの理由からメイ・ホランドを演じるのは、エマ・ワトソンが最もふさわしい上に、彼女でなければならない。そう感じた。

 

最初と最後の場面

 『ザ・サークル』の冒頭3分くらい。その場面をしっかりと観てほしい。実際に鑑賞すると「何のことを言っているんだ」と思うかもしれない。しかし冒頭数分を記憶に植え付けることで、最後の場面の印象がガラリと変わる。

見るだけではなく、周りの環境音、その人物の表情。全てに目を、耳を凝らして鑑賞してほしい。その方が今作の映画体験をより楽しめる、というか「そのこと」に対し、より考えさせられるだろう。

 

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サークル

 メイが「サークル」のキャンパス内に入ると、そこには会社とは思えないような光景が広がっていた。キャンパスの中庭には、柔らかな緑の丘、均等に植えられた木々。ヨガをする人や読書をする人、同僚と話している人。それぞれが思い思いの時間を過ごしていた。

「サークル」の外観は、Appleの新社屋"Apple Park"を連想させる設計だ。白を基調とし、ガラスを多用。中庭を囲む、円形のキャンパス。その社内は、Googleそのものだ。Googleでは数多くの雑誌などで特集されるように、社員、個々の働き方を重視し、彼らがベストパフォーマンスを出来るように考えられている。バランスボールを椅子として利用する者。座ること自体が自分のパフォーマンスに影響するとし、立って作業をする者。「サークル」内でも、そのような社員(サークラー)が描かれている。思わず笑ってしまうくらいに、AppleGoogleを遠回しに表している。

またメイが「サークル」キャンパス内を見渡す時のカメラワークにも注目してほしい。まさにサークル/円を描くように周りの様子を撮影しているから。

 

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音楽

 今作で印象的だったのは劇中の音楽だ。「映画的な」オーケストラによる音楽はほとんど使用されず。どれも現代的な、テクノロジーを感じさせるような音楽だった。例えるとしたら「ダフトパンク」的なサウンド、と言ったところだろうか。

これら音楽を全編に使用したことにより、『ザ・サークル』という作品の雰囲気は未来的で現代的となっている。映画とダフトパンクといえば『トロン:レガシー』が挙げられるが、今作もまったく違う映画ジャンルながら、音楽は大変似通ったものだ。

また予告編の曲も印象的だ。『ザ・サークル』を観ようと思ったきっかけも、その予告編の音楽が作り上げる雰囲気に惹かれたからだ。繰り返される"Watching you"という言葉。ピアノの重厚なサウンドと共に流れる、ボーカルの女性の透き通るような、ミステリアスな歌声。けれど予告編は見ない方が今作はより楽しめると思う。

 

 

 リアルシュミレーション型ファンタジー

ザ・サークル』では物語が進んでいくに従い、観客は創業者イーモンや「サークラー」の意見に飲み込まれ、同調していく。少なくとも僕はそうだった。このような映画は以前にも観たことがある。『帰ってきたヒトラー』という作品だ。この映画も物語が進むにつれ、ほぼ無意識的に劇中の意見に飲み込まれていく。そして鑑賞後に違和感、または恐怖を覚える。

今作もそうだ。このような映画には、独自のジャンル名をつけてもいいと思う。「リアルシュミレーション型ファンタジー」と。映画、つまり「作り物/ファンタジー」ではあるが、鑑賞後にその問題について考えさせられる。その物事について違和感を覚える。今後このような作品が増えてきたら、面白いのでは無いかと感じた。

 

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監視とプライバシー

この作品のテーマである「監視」と「プライバシー」。監視の線引き。どこの一線を越えたらいけないのか。プライバシーはどこまでが許容されるのか。Facebook Liveやツイキャス、LINE Liveなどで配信される、ライブ映像。それを見る赤の他人。それらのコンテンツを提供しているのは企業。ということは、その後ろにそのシステムを作る人がいるという事だ。誰が管理しているのか。どのように管理しているのか。幾らテクノロジーが発達しようと、独自のアルゴリズムを使用した解析ツールが登場しようとも、それを作り上げたのは人間だ。そのことを鑑賞後に改めて感じた。

 

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最後に

ザ・サークル』を観て何を思うか。人それぞれだろう。この作品は「語り合う」映画といていいだろう。友達と鑑賞後にプライバシーなどについて語り合う。ここで「語り合う」ことが重要だ。目と目を見て。ソーシャルネットワークを通じてではなく。しかしもう手遅れなのかもしれない。ソーシャルネットワークなしでは、仕事にも支障が出る世の中だから。

"Knowing is good. Knowing everything is better."この映画のキャッチコピーだ。鑑賞前と後では、この意味合いが、また違った意味合いに聞こえるだろう。"Better"が何の、誰に対しての"Better"なのか。 日本ではGAGAより近日公開。是非鑑賞してみては。

 

PICK UP!:"The Circle" /『ザ・サークル

・『ザ・サークル』を知ったきっかけ。クーリエ・ジャポンにて掲載されていた原作の翻訳版。

courrier.jp

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