#19:『君の名は。』レビュー

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遂に鑑賞することができた。RADWIMPSによる劇中歌に浸り、小説を読んだ後での鑑賞。だから結末や展開はすでに知っている状態。物語上で重要なツイストも知っている。それでも期待を超えてくるはずだ。そう思っていた。しかしその期待を超えることはなかった。

 

【作品情報】

題名:君の名は。

監督・脚本:新海誠

声優:神木隆之介上白石萌音 他

音楽:RADWIMPS

 

 

【ストーリー】

千年ぶりとなる彗星の来訪を一か月後に控えた日本。

山深い田舎町に暮らす女子高校生・三葉は憂鬱な毎日を過ごしていた。町長である父の選挙運動に、家系の神社の古き風習。小さく狭い町で、周囲の目が余計に気になる年頃だけに、都会への憧れを強くするばかり。「来世は東京のイケメン男子にしてくださーーーい!!!」

そんなある日、自分が男の子になる夢を見る。見慣れない部屋、見知らぬ友人、戸惑いながらも、念願だった都会での生活を思いっきり満喫する三葉。「不思議な夢……。」一方、東京で暮らす男子高校生、瀧も、奇妙な夢を見た。行ったこともない山奥の町で、自分が女子高校生になっているのだ。

繰り返される不思議な夢。そして明らかに抜け落ちている、時間と記憶。

その夢の秘密とは、そして彼らを待ち受ける衝撃の真実とは。

 

【レビュー】

 『秒速5センチメートル』を観賞してから、僕は新海誠監督の作品に心を惹かれた。『言の葉の庭』『星を追う子ども』などの過去作を観賞した。そして『君の名は。』が上映されることを知り、雑誌の特集などもチェックしていた。しかし公開3日前くらいに日本を離れてしまったので、観賞することが出来ていなかった。やっと観賞できたというわけだ。今作への期待値はもちろんのこと高かった。だが鑑賞後『君の名は。』は期待値を上回ることはなかった。

 

新海誠監督の作品だから

まず物語について。RADWIMPSのファンな訳でもなく、「遠く離れた場所にいる男女が入れ替わる」というアイディアが気に入ったから観たかった訳でもなく、新海誠監督の作品だから観たかったのだ。けれど今作のテーマは「記憶」だ。

しかし新海誠監督の過去作は、過去に何かあり、それが原因で何か起こるというような筋書きが多い。『言の葉の庭』の雪野先生しかり、『秒速5センチメートル』の貴樹くんしかり。過去の「何か」を引きづり、それが彼らに強く影響を及ぼす。この構造というか、登場人物の感じが好きだった。「好き」というと語弊があるかもしれないけれど、そこに惹かれた。

それに対し『君の名は。』は登場人物が10代ということもあり、過去に何かあるわけでもなく、とにかく前に前に、といった印象だった。それが原因なのか分からないが、僕は「のれなかった」。

 

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RADWIMPSの音楽

君の名は。』が話題となった一因でもある、RADWIMPSによる劇中歌。『前前前世』、『なんでもないや』、『夢灯籠』、『スパークル』。これらの音楽は観賞前から購入し、何度も聴いていた。特に歌詞が好きだ。だから映画のどこで、これらの曲が使われるのかが気になっていた。すると予想に反しさらっと使われていた。拍子抜けしたと言えばいいのだろうか。曲のみで聴くと素晴らしいのに、劇中歌としてだと特に感じるものはなかった。

特に隕石が衝突するまでの場面での『スパークル』は意外だっただけでなく、疑問さえ感じた。ハラハラするはずの場面であるはずなのに、曲が曲だけにハラハラすることが出来なかった。さらにRADWIMPSは劇伴も担当したらしいが、これも僕には合わなかった。

新海誠監督作の音楽の中で『秒速5センチメートル』の音楽が一番好きなのだが、これを担当しているのが「天門」という方。静かなピアノの伴奏であったり、素晴らしいの一言。是非聴いてほしい。

 

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テッシー

今作で一番感情移入してしたのは、立花瀧でもなく宮水三葉でもなく、勅使河原克彦だ。(テッシーと一緒で、僕が「ムー」が好きというのもあるが)三葉を純粋に信じ、発電所を爆発させるまでの彼の人間性。今までの新海誠作品には登場しない、まっすぐな人間。アニメ的というか、漫画的というか。

最後の方で、発電所を爆破したことが父親に見つかり「三葉、俺はここまでだ。」という場面。他の場面では泣かなかったにも関わらず、この場面で唯一涙をこぼしてしまった。ヒーローの挫折というべきだろうか、「自分の状況がやばい」「親に怒られる」とかではなく、三葉に託した一言。きっと何回観ても、この場面は泣いてしまうだろうな。

テッシーが都会の女の子と入れ替わったらどうなるのだろう。スプンオフとかで作ってくれないだろうか。もう一つ気になるのは、テッシーは三葉が好きだったのだろうかということ。そうだとしたら、瀧が入れ替わった状態の三葉にも、好意を抱いていたのだろうか。

・ムーによる新海誠監督へのインタビューを見つけた。面白いので是非。

新海誠監督が明かす 映画「君の名は。」と「ムー」の秘密 | ムー PLUS

 

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 隕石と3.11

 物語は中盤で「男女入れ替わり」から「隕石衝突」の物語になる。この物語のトーンの変化が違和感なく、変化していて凄いと思った。そして幾度となく登場する隕石が落下する瞬間の映像と音。何かが割れたような音。まばゆい光。来るとわかっていても怖いその映像は、地震を思い起こさせる。緊急地震速報が鳴っているにもかかわらず、くるのが分かっているにもかかわらず、恐怖を感じる。直接的に地震津波を描かなくても、ほとんどの人にはこの糸守湖への隕石の衝突が「東北大震災」のことを指していると分かったはずだ。

「『君の名は。』が日本で大ヒット」と謳う広告は、つまり無意識的に「東北大震災が日本中の人々に傷を残した」ということなのではないだろうか。立花瀧が崩れさった糸守の街を絶望の眼で見る様子は、テレビ越しに、あるいは直接、東北の様子を見た僕らと重なるだろう。津波で流される家々、車。避難する多くの人々。きっと同じように思った人がいるはずだ。

 

 誰かに何かを託す

三葉は立花瀧組紐を託した。立花瀧は三葉に糸守の運命を託した。三葉はテッシーとサヤちんに協力を仰ぎ、同じく糸守の運命を託した。誰かに何かを託す。誰かにバトンを渡す。過去の人に託す。未来に生きる人に託す。「託す」というのは、普遍的なもの。いつでも誰かに何かを託さなければ、その記憶は失われていく。糸を紡いでいかなければ、いずれほころびてしまう。

 

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アカデミー賞

君の名は。』はアカデミー賞を受賞することが出来なかった。公開日が他国と違うというのももちろんあるが、もし公開されていたとしてもアカデミー賞はきっと取れなかっただろうな、と観賞何度も感じた。なぜなら「察する」描写が多いからだ。欧米の映画は察するよりも、直接的な表現を好むという。例えばヒッチコックの『サイコ』。その最後の場面で、幾度となく殺人を犯した男の顔に骸骨がうっすらと重なる。そしてその骸骨は彼の母親の顔な訳なのだが、それは「察する」よりかは「見て察する」という方が適切な表現だ。

それに対し『君の名は。』は、観客がその場面の比喩的な描写に対し思惑を巡らせたりする場面が多い。一番に挙げられる例としては一番最後の場面だ。この場面で立花瀧宮水三葉は何かに惹かれるように巡り会う。駅を降り、走る。

カナダで今作を観賞したのだが、この場面の際に笑いが起こった。しかしこの場面は笑いが起こるような描写はない。彼等からしたら「すぐそばですれ違っているのに、会話を交わさないん」というのがコミカルに映ったのだろうか。だがこの場面は「察する」ことで瀧や三葉が何を感じているかに、思いを巡らせることができ、それは決してコミカルなものではなく、どちらかといえば悲劇的ともいえるだろう。この「察する」ということを、『君の名は。』を観た全世界の観客が一様に出来るのだろうか。

 

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素晴らしかった。けれど何かが合わない。 

 『君の名は。』は素晴らしい作品だ。その物語、メッセージ性、映像美。多くの人々を惹きつけたのも理解できる。けれど何かが合わない。「新海誠の集大成」らしいけれど、前作『言の葉の庭』が新宿近郊での2人の男女の孤悲の物語出会ったのに対し、『君の名は。』は隕石で誰かを記憶伝いに救う物語だ。しかも全国上映。富士山登頂からエベレスト登頂にいきなり目標を変更したような。全国上映するような大作は、もう少し後でもよかったのではないか、と正直感じてしまった。『君の名は。』は素晴らしかったけれど、心の底から「素晴らしい」と言える作品ではなかった。

 

最後に

やっと観賞することが出来た。素晴らしかった。だが心の底からの素晴らしいではなかった。正直心の底から素晴らしいと思えなくて、悔しいというか、なんというか。以前の自分なら素直に感動できたのだろうな、と思ったり。何かが自分の中で変わってしまったのだろうか。それともただ単に小説を先に読まなければ良かっただけの話だろうか。もう一度観てみようかな。『君の名は。』の評価は、

10点満点中 7点

未鑑賞の方はぜひ観賞してみては。

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