Y氏の休日

Y氏は毎朝4:30に起床する。平日、休日に限らずだ。なぜこれほどにも早起きなのかというと、彼は「ストイックの塊」と言ってもいいくらいにストイックだからだ。ストイックすぎるのだ。

Y氏は容姿端麗。身長180センチ、手足は長く、街を歩いていると女性に限らず、男性の目を引くほどだ。例えるとギリシャ彫刻というべきだろうか。しかも勉学もできる。普通なら羨望の眼差しを受けるだろうが、彼を昔から知るものは口を揃えて言う。

「まるでロボットだよ、あいつは」

しかしY氏自身は周りがそう言っていることを知らない。かといって、自分自身の容姿や秀才なことを自慢しているわけでもない。

そうそう。最初に「ストイック」と言ったけれど、どんなことにストイックなのかを言っていなかったね。Y氏は生活全てにストイック。つまりは修行僧みたいにしているという訳だ。

そんな彼にも休日がある。みんながあるようにだ。Y氏はそんな休日に何をしているのか。いつものように朝の4:30に起床したY氏は、近くの公園でランニングをする。そして遊具で筋力トレーニングをする。それらは一通り終わったら彼は帰宅し、朝食を食べる。カリカリのベーコンと黄身がしっかりと焼きあがるまでフライパンで調理した目玉焼き。それとヨーグルト、コップ一杯の冷たい牛乳。それを食べる。

食べ終えたら彼は瞑想をする。その時にY氏は常に将来のことを考える。自分自身の行動について。さらには死についても。それらを意識することでY氏は自分の行動を見極めているという。

瞑想が終わるとY氏は、手紙を書く。遠く離れた家族に。自分がどれだけ家族のことを愛しているか。どれだけ感謝しているか。そういうことについてだ。「ロボット」にもこのような一面がある訳だ。それをY氏の周りは知らないし、彼自身もそれを言わない。

 

 

 

 

 

 

 

「これが我が社が求める人材だ。分かってくれたかな。」

そう言って人事部のお偉いさんはプレゼンテーションを終えた。暗い部屋で唯一光っていたプロジェクターの光が消え、部屋の電気がつく。ここは会社の講堂。私が勤めているA社をB社が買収し、今日はその仕切り直し説明会。B社はどうやら「ストイック」で家族思い、仕事のできる容姿端麗なやつが欲しいらしい。

ところで、あのお偉いさんは気づいているのかな。今彼が説明した「Y氏」というのがもうすでにこの会議室にはいることを。B社からこのA社に転勤してきた、僕がY氏なんだからね。だいぶ前のアンケートで答えたのがそのまま採用されているよ。なんておかしいんだ。

そう心の中で思い、Y氏は美しい形の唇を少しあげてニヤリとした。

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