美容室よりも理髪店。

美容室よりも理髪店。

僕は、数年前から美容室ではなく、理髪店を利用するようになった。

美容室は大抵綺麗だ。流行の髪型なども知っているし、そういうカタログもある。髪を切ってもらっている間に手渡されるのは、ファッション雑誌やスポーツ雑誌。それになぜか分からないけれど、話しかけてくる。話すのが嫌いな訳ではないのだけれど、疲れている時に話しかけられて、「話しかけないでくれますか?」というのも変だ。シャンプーをしてくれる時は、いい香り(ココナッツとか)のするもので洗ってくれる。ワックスでヘアスタイルをキメてくれる。

そういう感じが苦手になってきた頃、美容室の予約が取れなかったので、駅前の理髪店に行くことになった。僕は、そこの理髪店に行きたくなかった。ビルの2階にあったから中を見ることが出来なかったということ。それと値段が美容室と比べて、安価だったので、どのように髪を切られるかが心配だったのだ。

理髪店。常連さんのような人しかいない。余計に不安になった。特に「誰々の髪型に似せてください」というような要望もないので、成り行きに任せた。AMラジオが流れていた。鶴瓶師匠のラジオ。普段FMを聴く方なので、新鮮だった。面白かったのを覚えている。

髪を切ってくれている、おじさんが話しかけてきた。当時の僕の年齢の子が理容室に来るのは珍しいらしく、たくさん話をしてくれた。昔に美味しいうなぎを食べた話とか色々。僕はそういう話を聴くのが好きなので、楽しかった。美容室とは違くて、自分が「何をしている」とか「趣味はなんだ」とかを話さなくてよかった。もしかしたら話していたのかもしれないが、それに気づかないくらいに自然に話すことが出来た。

髪を切り終わった。正直美容室よりも気に入った髪型に切ってくれた。それも注文をすることなく。それに髪も洗ってくれて、肩も揉んでもらった。その時に言われた言葉がすごく優しかった。

(肩を揉みながら)「勉強を頑張っているらしいから、ほどほどに頑張って」

 と。勉強の話など一回もしなかった。けれどこのような言葉をかけてくれたことに僕は心を動かされた。これ以来、僕はこの理髪店に通うことになる。おじさんの方も、僕を覚えていてくれて、「背が伸びたんじゃないか?」と言ってくれたこともある。

僕はこの理容室にいるだけでも、落ち着く時がある。しばらく僕だけが通っていたのだが、父親も通い始めた。 それほど理容室は惹きつけるものがある。

だから僕は美容室よりも理髪店の方が好きだ。

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